結論: イタリアの現地SIMでつまずくのは「どこで売っているか」ではなく「契約できるかどうか」です。イタリアでは電子通信法典98-undetricies条により、SIMを渡す前に本人確認を済ませ、身分証の写しを取ることが事業者に義務づけられています。EU域外の市民についてはパスポートまたは同等の旅行証明書の写しを取ると条文に明記されており、日本のパスポートで渡航する人はここに該当します。さらに、店頭で旅行者に勧められやすい格安ブランドには当局が公表している契約上の速度上限(30Mbps)が別にかかっています。

到着直後から通信を確保しておきたいなら、出発前に設定を済ませられるeSIMという選択肢があります。Coral eSIMのイタリアプランから滞在日数に合う容量を選べます。

イタリアの現地SIMは法律で本人確認が義務づけられている

「SIMを渡す前に」identifyする、と条文に書いてある

イタリアの電子通信法典(D.Lgs. 259/2003)98-undetricies条は「利用者の識別」という表題の条文で、事業者に次の義務を課しています。2025年4月12日施行の現行版で確認できる内容です。

  • 顧客はサービスの有効化より前に識別されなければならない。その時点はSIMカードの引き渡し時、デジタルSIM(eSIM)の場合はプロファイルの提供時
  • 新規契約・番号ポータビリティ・SIM交換のいずれの場合も、身分証に記載された契約者の個人情報と証明書の種類・番号を取得し、その写しを取得する
  • 事業者はプリペイド・ポストペイド双方の契約者一覧を内務省のデータ処理センターに提供する

つまりイタリアの現地SIMは、日本のコンビニでプリペイドカードを買うような「棚から取ってレジ」の買い物として設計されていません。購入と本人確認と回線の有効化が一体の手続きになっており、これは店の親切や慎重さではなく法定の要件です。

EU域外の旅行者はパスポートの写しが明文で指定されている

同じ条文には、EU域外の市民についての規定が括弧書きで追加されています。顧客がEU非加盟国の市民である場合、事業者は滞在資格証明、パスポートまたは同等の旅行証明書、あるいは有効な身分証明書のいずれかの写しを取得すると定められています。

日本や中国のパスポートで渡航する旅行者は、まさにこの規定の対象です。「念のためパスポートを持っていくとよい」ではなく、パスポートがなければ手続きが完了しないと理解しておくほうが実態に近くなります。ホテルのセーフティボックスに預けたまま買いに行くと、そこで一度戻ることになります。

起源は2005年のテロ対策法

この義務は近年の新ルールではありません。2005年7月に施行された国際テロ対策の緊急措置法(DL 144/2005)の第6条が、当時の電子通信法典55条7項を改正し、「サービス有効化の時点で」を「サービス有効化の前、SIMの引き渡しまたは提供の時点で」に置き換えたことが起点です。同時に、身分証の記載事項に加えて提示された証明書の複製を取得することが求められるようになりました。20年以上運用されている枠組みなので、店側の対応も定型化されています。

この手続きに時間を使いたくない場合は、渡航前に自分の端末へプロファイルを入れておく方法があります。Coral eSIMのイタリアプランは日本にいるうちに設定でき、到着後は機内モードを解除するだけです。設定手順は旅行用eSIMの設定方法にまとめています。

無人販売やオンライン発行が成立している理由も同じ条文にある

98-undetricies条には、上の義務に続けて「契約者の識別は遠隔または間接的に行うこともできる」という一文があります。条件は、利用者の確認に必要なデータが正しく取得されること、および個人データ保護に関する規定が守られることです。

この一文があるため、イタリアでは有人カウンター以外の販売形態も法的に成立します。2005年のDL 144/2005第6条2-bis項には、さらに具体的にデータ通信専用SIMについて、SMSや記名式決済カードを使った間接的な識別・登録を認める規定が置かれています。

逆に言えば、無人の端末やオンラインで手続きが完結する場合でも、本人確認そのものが省略されているわけではありません。書類の提示がその場での対面から画面越しの手続きに移っただけで、身分証は必ずどこかで要求されます。適用除外が認められているのは、機器内部に取り外し不能に設置され、取り外しても音声通話・SMS・インターネット接続に使えないIoT用のSIMだけです。

codice fiscale を求められると旅行者は詰みやすい

もう一つ、日本語の情報でほとんど触れられていないのがcodice fiscale(納税者番号)です。16桁の英数字コードで、外国籍者がイタリアの公的機関や行政と関わるときの識別に使われます。契約手続きの画面や書式がこの番号を前提にしていることがあります。

問題は取得方法です。イタリア歳入庁(Agenzia delle Entrate)の案内によれば、EU域内・域外を問わず初めて codice fiscale を取得する外国籍者は、窓口での対面予約が必要です。在外イタリア領事館、移民ワンストップ窓口、警察本部でも取得できますが、いずれも到着当日に思い立って済ませられる手続きではありません。短期の旅行で現地SIMを前提に計画を組むなら、この番号を求められた場合の代替手段を先に決めておくべきです。

どのブランドを買うかで速度の上限が変わる

当局が「契約上の速度上限」を一覧で公表している

イタリアには他国であまり見かけない情報公開があります。AGCOM(通信保障庁)は決議23/23/CONSにもとづき、MVNOおよび大手のサブブランドについてホストしている事業者・使用する世代・契約上の速度上限を一覧で公表しています。旅行者が店頭で勧められやすいブランドは、次のように整理されています(表は6か月ごとに更新。以下は2026年8月13日時点の掲載内容)。

ブランド回線を借りている先使用する世代契約上の上限
ho.mobileVodafone Italia2G-4G30 Mbps
KenaTIM(TIMが販売するブランド)2G-4G30 Mbps
VERY MOBILEWind Tre(Wind Treが販売するブランド)2G-3G-4G30 Mbps
LycamobileVodafone Italia2G-4G60 Mbps
Digi MobileTIM2G-4G下り100 / 上り50 Mbps
FastwebVodafone Italia2G-4G-4.5G-5G制限なし
PostePayTIM2G-4G-5G制限なし

「大手の回線だから速い」は成り立たない

この表で重要なのは、AGCOM自身が付けている注記です。Kena は MVNO ではなく TIM が販売するブランド、VERY MOBILE は MVNO ではなく Wind Tre が販売するブランドだと明記されています。つまり大手そのものが売っている廉価ブランドであっても、契約上30Mbpsの上限がかかっているということです。

「TIMの回線だから速いはず」「Vodafoneのサブブランドなら安心」という選び方は、この表の前では成立しません。見るべきなのはブランド名でも回線の持ち主でもなく、上限の欄です。同じ表からは、上限のあるブランドの多くが5Gの記載を持たないことも読み取れます。

当局の実測331Mbpsは別の話

AGCOMは毎年45都市でドライブテストを実施しており、2025年キャンペーン(9月〜12月実施、2026年2月23日公表)の平均は静止測定で下り約331Mbps、市街地の移動測定で下り約269Mbpsでした。イタリアの通信が遅いという前提は、この数字を見る限り成り立ちません。

ただしこの測定の対象は、自前インフラで人口カバー50%以上を達成した5社(Fastweb / Iliad / TIM / Vodafone / Wind Tre)に限られます。30Mbpsの上限がかかったブランドを買った人が、この331Mbpsを体験することはありません。イタリアの通信環境そのものについてはイタリアのWi-Fiと通信環境の記事で都市別の数字まで扱っています。速度が出ない原因の切り分け方は通信が遅いときの確認手順を参照してください。

現地SIMが向いている旅行と、向いていない旅行

イタリアのSIMはEU域内でそのまま使える

現地SIMの利点として実質的なのは、複数国をまたぐ旅程です。欧州委員会の案内によれば、EU加盟国に加えてアイスランド・リヒテンシュタイン・ノルウェー・モルドバ・ウクライナの域内では、追加料金なしで国内料金が適用されます。イタリアで契約したSIMをフランスやスペインでそのまま使えるということです。

制度上の上限も公表されています。公正利用方針にもとづくデータの上限は2025年で1GBあたり1.30ユーロ+VAT、2027年以降は1ユーロ+VATと定められており、4か月の観測期間で国外での利用が国内を上回った場合には追加料金が課され得ます。数週間の旅行で上限に触れる設計にはなっていませんが、長期滞在では条件を確認する価値があります。

短い旅程では手続きのコストが上回りやすい

一方で、本人確認・店舗の営業時間・言語・codice fiscale の可能性を積み上げると、数日の滞在で現地SIMを選ぶ合理性は下がります。到着初日の移動や宿のチェックインでこそ通信が必要なのに、その通信を得るための手続きに時間を使うことになるためです。

判断材料としては、次の順に考えると整理しやすくなります。

  1. 滞在が数週間以上でイタリアが拠点なら、現地SIMの手続きコストは償却できる
  2. 複数のEU諸国を回るが滞在は短いなら、EU域内で使える旅行用eSIMのほうが手続きが軽い
  3. 滞在が1週間以内なら、出発前に設定を終えられる方法を選ぶ
  4. 自分の番号での着信やSMS認証が必要なら、番号の扱いを先に決める(eSIMと電話番号の関係SMS認証コードの受け取り

ローミングとの比較は国際ローミングとeSIMの比較、空港での購入との比較は空港SIMとeSIMの比較で扱っています。

空港の運営会社自身がeSIMを売っている

示唆的なのは、ローマ・フィウミチーノ空港を運営するアエロポルティ・ディ・ローマ(ADR)が、公式サイトで旅行用eSIMを販売していることです。ウェブ・アプリのほか、空港内のタッチポイントおよびデジタル端末(totem)から購入できるとしています。サービス自体は BNESIM Limited が提供・販売・運営しています。

その説明文には、欧州域外からローマに到着する人にとってイタリア向けeSIMは「すぐに電話ショップを探さずに」滞在中の通信を確保する実用的な手段になり得ると書かれています。現地SIMの売り場を管理している当事者が、到着直後の導線として物理SIMではない選択肢を案内しているわけです。

なお、eSIMを選ぶ場合は端末側の条件を先に確認してください。eSIM対応端末の確認方法SIMロック解除の確認が出発前のチェック項目です。到着してつながらないときの対処は到着後につながらない場合の手順APN設定の確認にまとめています。

FAQ

イタリアで現地SIMを買うのにパスポートは必要ですか?

必要です。電子通信法典98-undetricies条は、顧客がEU非加盟国の市民である場合、滞在資格証明・パスポートまたは同等の旅行証明書・有効な身分証明書のいずれかの写しを取得すると定めています。日本のパスポートで渡航する旅行者はこれに該当します。加えて、同条は身分証の写しの取得を新規契約・番号ポータビリティ・SIM交換のすべての場合に義務づけています。

空港に着いてすぐ現地SIMを買えますか?

売り場の有無や営業時間は空港・ターミナル・時間帯によって変わるため、到着便の時刻を前提に確実だと考えないほうが安全です。加えて、購入は本人確認と一体の手続きになるため、レジで支払って終わりという時間では済みません。ローマ・フィウミチーノ空港の運営会社ADRは公式サイトで、欧州域外からの到着者に対し「すぐに電話ショップを探さずに」通信を確保する手段として旅行用eSIMを案内しています。

codice fiscale(納税者番号)がないとイタリアのSIMは買えませんか?

法律が定めているのは身分証による本人確認であり、codice fiscale の提示そのものではありません。ただし契約手続きの書式がこの番号を前提にしている場合があります。イタリア歳入庁によれば、外国籍者が初めて codice fiscale を取得するには窓口での対面予約が必要で、領事館・移民ワンストップ窓口・警察本部でも取得できますが、いずれも短期旅行者が到着当日に用意できる手続きではありません。

イタリアの格安ブランドのSIMはなぜ遅いことがあるのですか?

契約上の速度上限がかかっているためです。AGCOMが公表している一覧では、ho.mobile・Kena・VERY MOBILE のいずれも上限30Mbpsと記載されています。Kena は TIM が、VERY MOBILE は Wind Tre が販売するブランドだと当局自身が注記しているため、大手の回線であることは上限の有無と無関係です。この表は6か月ごとに更新されるため、購入前に最新の掲載内容を確認してください。

イタリアで買ったSIMは他のEU諸国でも使えますか?

使えます。欧州委員会の案内によれば、EU加盟国に加えてアイスランド・リヒテンシュタイン・ノルウェー・モルドバ・ウクライナの域内では追加料金なしで国内料金が適用されます。公正利用方針にもとづく上限は2025年で1GBあたり1.30ユーロ+VAT、2027年以降は1ユーロ+VATです。4か月の観測期間で国外での利用が国内を上回る場合には追加料金が課され得ます。

イタリアの現地SIMは「安いから選ぶ」ものではなく「契約できるか」で選ぶもの

イタリアの現地SIMをめぐる情報は、そのほとんどが「どれが安いか」「どこで売っているか」に向いています。しかし一次情報を読むと、実際に旅行者の行動を縛っているのは価格ではなく本人確認という法定の手続きと、ブランドごとに設定された契約上の速度上限であることがわかります。前者は2005年から20年以上続く枠組みで、後者は当局が半年ごとに更新して公表しています。どちらも店頭では説明されません。

したがって判断の順序は、価格の比較ではなく「この滞在日数で、この手続きを踏む価値があるか」から始めるべきです。数週間以上イタリアに腰を据えるなら現地SIMは合理的な選択になります。数日から1週間程度の旅程で、到着した瞬間から地図と予約確認が必要なら、出発前に設定を終えられる方法のほうが噛み合います。Coral eSIMのイタリアプランは日本で設定を済ませ、到着後すぐに使い始められます。他の渡航先も含めて選びたい場合はプラン一覧から比較してください。

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